最近の研究内容


1.離島漁業の振興にむけた制度・政策研究

 鹿児島県は数多くの「離島」を抱えています。それぞれの離島には、訪れる者を魅了する独自の文化や自然が広がっています。離島の経済を支ええる産業のひとつは「水産業」です。鹿児島の離島周辺には、よい漁場が広がっています。こうした恵まれた漁場条件を生かしながら、離島の漁業者は日々生産活動を行っています。漁獲物の多くは鹿児島県本土に出荷され、我々の食卓を支えています。
 しかし、漁業の経営は厳しさを増しています。離島では漁業用燃油や漁具など生産関連資材の価格は本土に比べて割高であり、生産コストは高止まりする傾向にあります。一方、出荷はフェリーの運航スケジュールに規定され、輸送費用も嵩みます。市場までの時間距離が長いことから、輸送中に鮮度劣化が発生し、市場での価格は安値になりがちです。
 このように離島における漁業は、生産から出荷まで数多くの条件不利を被ることから、経営は非常に厳しいのです。では、離島で漁業が衰退したらどうなるのでしょうか。離島周辺海域で漁獲される多様な魚が我々の食卓に届かなくなる可能性があります。みなさんが好きなあの魚が売られていない!そんな状況に陥るかもしれません。また、離島から漁業が消えると、離島で生活できなくなる人々が出る恐れもあります。離島で生活できなくなれば、本土で職を求める人が一層増えるでしょう。やがて離島の社会や経済は崩壊し、人が住める環境が失われていく可能性もあります。
 それでは、離島漁業の持続性を確保するためにはどうしたらよいのでしょうか。先行研究を読み漁るだけではなく、実際に離島をお邪魔して、漁業関係者や行政関係者からお話をお伺いしながら離島漁業の抱える課題の把握と対応策、必要とされる政策的支援の具体的内容を考えています。従来までの発想の延長線上で考えるだけではなく、全く新しい発想や技術が大切になります。

→科研費・基盤研究(C)研究代表者「奄美群島の持続的社会を目指した高付加価値漁業生産への変革とイノベーション研究」(2022.4~2026.3)


2.漁業管理に関する研究

 漁業を継続的に行っていくためには、漁獲対象となる水産資源が豊かであり続けなければなりません。日本では、資源の利用者自ら、漁業管理を通じて資源水準の維持に注力しています。東南アジア、太平洋島嶼国、アフリカなどからたくさんの学生が水産学へ留学し、日本式の漁業管理のあり方を学ぶなど、注目度は非常に高いです。

 しかし、資源水準を維持することは容易ではありません。漁業者による高い漁獲圧力(乱獲)が指摘されがちですが、地球・海洋環境の変化、沿岸域の開発など、漁業者を起因としない事柄によっても水産資源は影響を受けます。

 また、新たな問題も浮上してきました。それは漁業者の高齢化と減少です。漁業管理の担い手そのものが減少しているのです。なかには、漁業管理の組織を解散する地域もみられるようになりました。漁業者の数は減少しているのだから、漁業管理の必要性もないだろう、そんな声も一部で聞かれますが。漁業関連機器の発達によって、漁業者の減少が漁獲圧力の低下に直結しないケースも少なからず存在するようです。

 こうした状況に対応可能で、かつ、実効性のある漁業管理のあり方とはどのようなものなのでしょうか。


3.観光産業との連携による漁業経営振興

 水産資源、環境、景観などに恵まれた沿岸域は、観光開発の対象地として選定されることも少なくないようです。観光産業の立地を機に、観光市場へ上手く対応しながら漁業経営の振興を目指す取り組みは国内外でみられます。

 フィリピンでは、観光産業の立地が漁業経営に与えた影響について、フィリピン大学の先生とともに調査をしています。ボラカイ島という一大リゾート地の形成に伴い、周辺漁村からは魚介類が供給されるようになりました。果たして住民の生活は向上したのでしょうか。そこには光と影があるようです。

 


4.海外におけるマグロ産業に関する研究

 近年、海外における水産業を調査する機会に恵まれています。日本とは全く異なる事情・制度のもとで漁業が行われており、新たな発見の連続です。

 インドネシアでは、マグロの対日輸出について調査をしています。インドネシアは我が国にとって、生鮮キハダ、生鮮メバチの主力供給国です。観光地で有名なバリ島にはマグロ産業が集積しています。マグロの漁獲~加工~出荷のメカニズムやマグロ産業が抱える課題などを分析しています。

 また、ベトナムではキハダの漁獲が行われています。品質の改善による対日輸出が検討されています。食品、漁具、経済などを専門とする先生方と一緒に、品質向上、国内外への販路確立などにむけた検討を行っています。

 マルタでは、日本向けの養殖マグロの生産が盛んです。養殖にかかる管理制度の変化、それによる養殖経営への影響などの分析を行っています。


5.フィジー:水産資源管理に関する研究

  日本はもちろん、太平洋島嶼国においても水産資源は沿岸住民にとって重要な資源です。2017年以降は、とくに「ナマコ」に焦点をあて、その管理の現状と課題について調査を行いました。

 ナマコは高価で取り引きされていることから、沿岸住民にとって重要な収入源です。多くは台湾、香港、中国などの国々へ輸出されてきました。しかし、高値で取引されることから、過剰な漁獲圧力がかかり、ナマコの資源水準低下が顕著になりました。

 フィジー政府は2017年、ナマコの禁漁措置を導入しました。それによってナマコ資源の保全が目指される一方で、沿岸住民は収入源のひとつを失いました。それによって新たに引き起こされた問題とは!?

→科研費・基盤研究(B)研究分担者「太平洋小島嶼国での資源利用の時空間解析による人と自然の共生に関する研究」(2021.4~2024.3)